薬剤師の仕事を通して見えた、
緩和ケアの現場
肺炎などで入退院を繰り返していた子どものころ、つらい投薬や身体が苦しいときにやさしく励ましてくれたのは、薬剤師の方々でした。薬に助けられたという思いから、医薬品メーカー勤務を経て薬剤師に。薬剤師というと、薬局のカウンターの中で薬を調剤しているひと、と思われがちですが、病気で薬を取りに来られない方や介護施設にいる方へ薬を届けに行くのも大切な仕事のひとつです。私が配属された薬局は地域医療に力を入れており、痛みを和らげるケアを必要とする患者さんと多く接してきました。
そうした患者さんのQOL向上について介護士の方々と話し合ううちに、まずは介護する側が元気に、ポジティブに働ける環境づくりが重要なのだと気付きました。疲れを感じやすい場面や負担の軽減に“香り”の活用を考えるようになり、アロマテラピーを学び始めたのです。
医療×アロマの可能性を育てたい
介護施設での経験から、薬剤師という枠にとらわれず医療人として香りの可能性を追求したいと思うようになりました。薬学の知識や医療現場での経験に加え、人々にとってのアロマの価値をしっかりと明示できるように、現在はマーケティングのナレッジが学べる会社に所属しながら、個人でアロマのオンラインサービスを立ち上げています。
To C(個人向け)では、メンタルケアや生理期・更年期の心身のゆらぎに関する問い合わせが多く、そうした症状に対する香りの提案がメインです。オンラインという気軽さのためかセンシティブな悩みも率直に話していただけるので、結果的に精度の高いコンサルテーションができている手応えがあります。To B(法人向け)では、小児歯科がアロマを取り入れて子どもが嫌がる消毒液のにおいを和らげ、早期治療の促進とリピート率の向上につながるなど、患者と病院の両方にメリットを生んでいます。
オンラインでのコンサルテーションで自分に合った香りを提案
最終目標である介護現場への導入では、気になるにおいのマスキングとともに認知症予防につながる嗅覚トレーニングが実現できれば、二重三重にウィン・ウィンをもたらすと考えています。こうした可能性を大きく育てるため、今はせっせと種をまき、とにかく動きを止めずにひとつひとつ実績を積み上げています。
正しい知識と好きな香りを
掛け合わせることが大切
「不眠にはラベンダー精油を」と勧められても、ラベンダーの香りが好きでなければ逆効果となる場合も。嫌いなにおいでは、身体は休まっても気持ちは休まらないという論文もあるのです。但しラベンダー精油の効能も活用したい。そこでブレンドの出番です。ラベンダー1、スイートオレンジ4など配合を工夫することで印象としては柑橘系でラベンダーはふわりと香る程度に。こうした設計に、私の医療分野での経験とアロマブレンドデザイナーとしてのスキルが活かされると思っています。好きな香りを選んでもらうだけでなく、ユーザーの生活環境や健康上の課題を掛け合わせることで、一つ上のサービスが提供できると思っています。
具体的な香りの話をする場面では、「どんな香り」という説明でピッタリくる言葉が見つからず、苦労していました。アロマスクールでは、目に見えない香りという体験を“伝わる”形に置き換える講師の方々の表現力が素晴らしく、そこから多くを学びました。一見、豆知識的な語彙がクライアントのニーズを引き出せるか否かの分かれ道になることもあるので、とても貴重な経験でした。
人生の中で自分がこれだと思えるものに出合えたら、ときには大胆な決断が必要ですが、何よりも謙虚に学び続けることが大切なのだと思います。そうしているうちに、自分のやりたいことと、人や社会に求められていることがつながり、自分らしい道を歩きはじめられるようになったと実感しています。