アロマを学んで感じた、
自分への確かな手応え
小学生のとき、香り好きな母にアロマディフューザーと精油のセットをプレゼントしたのですが、いつの間にか自分も使うようになっていて。ディフューザーの灯りを眺めながらいい香りに包まれていると、不思議とよく眠れたんですよね。それから精油の成分や、どういう経路で身体に香りが取り込まれるのかということに興味を持ち、薬剤師の母に詳しく教えてもらったり、ノートに化学式を書いて覚えたり。アロマテラピーインストラクターの資格を取ったのも、解剖生理学的な観点からアロマを知るのが面白いなと思ったからです。
アロマと深く関わるうちに気づいたのは、「自分は本当に化学が好きなんだな」ということ。同時に、香りの効能だけでは計れない「アロマの持つ可能性」を感じて、昨年アロマブランドを立ち上げました。それがきっかけとなり進路を見直すことにもなりましたが、迷いはありません。難関大学を目指して猛烈に勉強していた一年前の自分よりも、好きな分野を極めたいという今の自分に確かな手応えを感じているからです。高校を卒業したら昼間は働いて、設備の整った理化学系の夜間大学に通いたいと考えています。
アロマのビジネスを通して、
見えてきたこと
アロマブランド立ち上げの際には、父から大きな影響を受けました。父は税理士として働きながら、剣術や歌、楽器の演奏といった身体活動を通じた非言語のコミュニケーションを広める活動を10年以上続けています。これらの取り組みを事業化する話が家族会議で出たとき、自分もアロマの分野で何か始めたいと考え、その活動に組み込んでもらう形でブランドを立ち上げました。相手に何か伝えようとしてうまく言葉が見つからないとき、言葉に変わるものとして「香り」はぴったりのツールだと思います。目に見えない“気持ち”を香りで分かち合うことができたら……デジタル社会での生きづらさも、多少解消されるのではないでしょうか。
アロマのビジネスを通して、自分の暮らす地域や人について考える機会が増えました。父の紹介で地元・川崎のデザイナーさんにホームページのデザインをお願いしたり、商品の梱包やラベルを貼る仕事を近所の福祉作業所へ発注したり。駅前の商業施設では、初めて店頭でオリジナルアロマを販売しました。以前は何でも一番になることを競って上ばかり見ていましたが、ビジネスを通して「横」の関係が広がったことで、今では違った景色が見えています。それぞれの場所で精一杯働いている人と接すると、シンプルに「かっこいいな」と思うし、そうした人たちと一緒に地域を盛り上げていきたいです。
香りひとつで、幸せを感じられる
精油のブレンドを学ぶためスクールに通っていたとき、沖縄の島月桃の精油に出合い、衝撃を受けました。「この香り知ってる!」と思った瞬間、家族の顔が浮かんできて。沖縄を訪れたことはないので不思議に感じたところ、毎年年末に家族で行っていたごはん屋さんで嗅いだことのある香りだと思い当たりました。この2年はコロナ禍でお店に行けなかったのですが、その香りはまさに「家族との思い出」の香り。一瞬で温かい気持ちになれたんです。
その月桃の精油を使って、いま商品開発を進めています。精油の効果効能を考えてブレンドするという方法もあると思いますが、自分の場合は、記念日や思い出にまつわる香りで成分を設計することが多いですね。自分がブレンドした香りで誰かが幸せを感じたり、ほっとしたりしてくれたら、すごくうれしいだろうな。ビジネスとしての成功にはまだほど遠いのですが、自分の「やりたい」気持ちを大切に、できることからコツコツとやっていこうと思っています。